スライドを作るコツはまず○○をすること! その1

ミヤケ・ユイさん(24歳)が働いているのは、とある地方の機器販売会社。

主に県内の中小・零細企業と取引し、文具や事務機器、オフィス家電などを納入しています。

 

仕事を教えてくれる人がいない!

とはいえ今時それだけでは経営が成り立ちません。

ということで会社はソフトウェアの販売やウェブ制作、サーバ保守など多角的な展開を試みていますが、イマイチうまくいっていません。

入社3年目のミヤケさんは営業職で入社したのですが、先代から事業を引き継いで間もない二代目社長(42歳)の直属のような形になり、いつの間にか新規ビジネスの社内提案なども行うハメに。

 

新しいことにチャレンジするのは嫌いではありません。

しかし実を結ぶことが少ないのと、社長は忙しくてあまり話もできず、たまに話をすると新しい指示が出るばかり。

元々所属していた営業部の課長は

「ミヤケさんはもう社長直下みたいな形だから…」

と遠慮してしまい、なかなか仕事を教えてくれる人がいません

今日もモニターとにらめっこしながら頭を抱えていると、総務課長として転職してきたばかりのイノウエさん(39歳)が声をかけてきました。

 

イノウエ

「ミヤケさん、大丈夫ですか?」

ミヤケ

「あ〜井上さん!

 そうなんですよ〜。

 スライドができなくて」

イノウエ

「スライドって難しいですもんね」

 

そう言われてミヤケさんは

「イノウエさんってどれぐらい仕事ができるんだろう?」

とふと疑問になりました。

 

スライドを作るのは簡単なはずなのに…

従業員45人のこの会社に、課長はイノウエさんともう一人、営業課長しかいません(主任は3人います)。

他の役職者は社長の弟である専務が一人だけ。

(イノウエさんが入ってくるまで、専務は管理部長という名前で総務を見ていたのですが、イノウエさんが入社してからは営業と総務の統括をするようになったのです)

 

そう考えるとイノウエさんはそれなりに凄い人なのかもしれませんが、部署が違うこともあり、実際に何をしているのかはイマイチよく分かりません。

ミヤケさんは好奇心半分、藁にでもすがりたい気持ち半分で、イノウエさんに相談してみることにしました。

 

ミヤケ

「イノウエさん、アドバイスもらえませんか?」

イノウエ

「僕ですか…?」

 

イノウエさんはしばらく困惑したような表情でしたが

「ちょっと見ていいですか」

と言ってミヤケさんが作ったスライドを覗き込みました。

とはいえミヤケさんには、作りかけのスライドには自信がありました。

大学の授業でもプレゼンはしましたし、スライドの作り方も習っています。

テーマに沿ったスライド作りはどちらかというと得意な方でした。

なので問題はテーマにある、とミヤケさんは思っていました。

社長から言われたのは

「高齢者に特化したパソコン教室を開けないかな? 考えてみてよ」

というざっくりしたオーダーで、これではテーマに沿ったスライドなど作りようがありません

スライドが4枚しかできていないのはそのせいだと思っていました。

ですが、一枚一枚は手をかけており、見栄えもしっかりしています。

フォントもこだわっていますしイラストも使い、数字も入れ込んでいる。

問題はこの後をどうするかです。

 

「このスライドで何を伝えたいの?」

そんなミヤケさんにイノウエさんは、気の毒そうな表情を見せました。

 

イノウエ

「うーん…」

ミヤケ

「どうしたんですか?」

 

イノウエさんはしばらく黙った後で、ミヤケさん、と口を開きました。

 

イノウエ

「ミヤケさんは本当にアドバイスが欲しいんですか?

 それとも、話を聞いて欲しいだけですか?」

 

え、と今度はミヤケさんが困惑してしまいました。

私はどうしてほしいんだろう。

話を聞いて欲しかっただけなのかもしれない。

でも今、相談できる人がいないのは事実だし…。

それにイノウエさんが仕事ができる人なのかもちょっと知りたい。

 

そう思いながらミヤケさんは、アドバイスが欲しいです! と伝えました。

分かりました、とイノウエさんはうなずき、言いにくいですけど…と口を開きました。

イノウエ

「ミヤケさんはこのスライドで何を伝えたいですか?」

ミヤケ

「それって結論から先に言えっていうアレですか?」

イノウエ

「いや、そうじゃなくて。

 まぁそう言えばそうなんですけど、別に結論が先じゃなくてもいいんです。

 っていうことは、結論自体はあるんですか?」

ミヤケ

「今はまだないですけど…まとめていけば結論が出ると思います」

 

そう答えたミヤケさんに、イノウエさんが初めて厳しい目つきを見せました。

 

イノウエ

「ミヤケさん。

 ゴールを決めないままで走り出したら、いつかゴールって決まると思います?

 もう走れなくなったところがゴールですかね?」

 

そう言われてミヤケさんは言葉に詰まってしまいました。

(続く)

www.howtoworkatsme.net