作ったスライドにダメ出しをされ
「スライドを作るコツは愛」
「対象に興味を持つことがスライド作りのコツ」
などと訳の分からないことを言われたミヤケさん。
スライド作りのポイントとは何なのでしょうか?
「あなたに興味がありません」は相手に伝わっている
対象に興味を持つ?
ミヤケさんは首を傾げました。
井上
「対象っていうのは社長でも、ぼんやりとした『お年寄り』っていうイメージでも、ましてやビジネスプランでもなくて、ここでいえば実際に来てくれるお客さまです。このスライドを、さらに言えばスライドで提案されたアイディアを形にしたときにそのサービスや商品を使ってくださる方のことです。」
そう言われてミヤケさんは再び気づきました。
私にはそのイメージは全然なかった。
実際のユーザーさんに興味なんか全然持ってなかった。
そんな提案が具体的になんかなるはずがない。
ミヤケさん、とイノウエさんはふっと笑いました。
イノウエ
「合コンで、自分の話ばっかりする男性が嫌なのって何でですか?」
言われてミヤケさんは考えます。
ミヤケ
「…自分のことにしか興味がないから?」
そうですね、とイノウエさんは頷きました。
イノウエ
「とはいえ、女性であれば誰でもいいって感じでどんな女性にも同じように話してる男性もきっと嫌ですよね。それって何でですか?」
言われてミヤケさんははっと気づきます。
私じゃなくてもいいから、だ。
そうか、ユーザーは「自分のために提案してもらいたい」んだ。
少なくとも、そう思わせるスライドじゃないとダメなんだ。
唇を噛み締めたミヤケさんに、もう一つ、とイノウエさんが言いました。
ゴールを理解してスライドを作り始めているか?
イノウエ
「ミヤケさん、さっき僕が、ミヤケさんはこのスライドで何を伝えたいですか? って訊いたとき、自分でも分かっていなかったですよね?」
ミヤケ
「…はい」
イノウエ
「例えばミヤケさんが好きな人に話しかけるときって、何でもいいから話しかけて嫌われてもいい! とにかく話せれば相手の気持ちなんかどうでもいい! って思って話しかけますか?」
ミヤケ
「…いえ(何でこのおっさん何でも恋愛に例えんのよ)、相手に好かれたいなって思いながら、会話を続けたいとか…少なくとも嫌われてもいいっては考えないと思います」
そうですよね、とイノウエさんは頷きます。
イノウエ
「それが、自分が何を伝えたいか分かっているっていうことなんです。伝えたいのは好意ですよね。はっきりと伝えるか、漠然と伝えるか手法に差はある。会話の中身とか、そういうテクニカルな問題はある。逆に言えば、『今日のランチは何を食べるんですか?』って訊いたからと言って、ランチの内容を知ることが目的ではない。大切なのはゴールです。」
そう言ってイノウエさんはミヤケさんの目を見ました。
イノウエ
「ミヤケさん、スライドを作り始める時に何となくでもゴールを決めていましたか?」
ミヤケ
「ぐっ…」
いきなりスライドを作り始めてはゴールに辿り着けない
イノウエ
「ミヤケさんのスライド作りがうまくいかない理由の一つはそこにあります」
イノウエさんはそう言ってノートを開きました。
そこには文字やらグラフやら下手くそな絵やらが並んでいます。
イノウエ
「スライドはいきなり作り始めちゃダメです。まずは紙にラフを描くんです。」
はあ、とミヤケさんはぼんやり頷きました。
イノウエ
「画家が何を描くかも決めないでキャンバスに向かうと思いますか? 何を作るか決めないで材料を適当に合わせていったらおいしいご飯ができますか? 紙に下書きをするってのはそういうことなんです。この段階でイメージが決まっていなければ、いざスライドを作り始めてもいいものなんかできません。時間がかかるだけです。」
でも、とミヤケさんは声を絞り出しました。
ミヤケ
「先にゴールが必要なのは分かりました。でも、ゴールを決めたら、後はどうせスライドにするんですよね? スライドを作りながら微調整していけばいいのでは?」
イノウエさんは渋い顔をします。
イノウエ
「ミヤケさんが言ってるのは、まだ全然楽器が上手く弾けない人が、教本を見ながら作曲すればいいって言ってるみたいなものだと思いますね。作ることと修正することを同じにやるのはめちゃくちゃ大変ですよ。」
そう言われてミヤケさんは確かに、と思い出しました。
書いた文章がこれでいいのか考えては直し、文章を直したらグラフも気になって…とやっていると修正作業ばかりでキリがありません。
イノウエさんがいう通り、まずはイメージを明確にしてから形にし、直すべきところは後でまとめて修正した方がずっと効率的な気もします。
(続く)