スライド作りで大切なのは対象に興味を持つこと、そしてゴールを決めることだと言われたミヤケさん。
また、ゴールを決めたらまずはイメージを固めてからスライドを作り始めるようにと言われたのでした。
スライドのコツは3つ!
イノウエ
「まとめましょうか、このテーマも今日で最終回みたいですし」
ミヤケ
「は、はあ…」
力なくミヤケさんは頷きます。
そんなミヤケさんを尻目に、まとめます、とイノウエさんはA4用紙にマジックで文字を書きました。
スライドで大切なのは
- 対象に興味を持つこと
- ゴールを先に決めること
- ゴールを決めたらいきなりスライドを作らず、紙に書いてみること
この3つです、とイノウエさんはマジックに蓋をしました。
イノウエ
「簡単でしょ?」
ミヤケ
「…簡単過ぎません? 内容とか見え方とかはどうなるんですか? スライドを四分割した方が見やすいとか、大学で聞きましたけど」
スライドを作るのにテクニックは後でいい
ミヤケさん、とイノウエさんは困ったような顔をしました。
イノウエ
「確かにテクニックみたいなものはあります。フォントの大きさとか色とか、揃えた方が見やすいです。内容も起承転結だとか、ページ数をどうするだとか色んなことはあります」
あるんじゃないの、とミヤケさんは心の中で頬を膨らませました。
これでも大学の時はちゃんと授業でスライドの作り方を学んだのです。
それに引き換えこのおじさんはどこでスライドの作り方を勉強したのでしょうか?
でも、とイノウエさんは言いました。
イノウエ
「まず大切なのはテクニックじゃありません。相手に伝えたいことがあるか、そしてそれが相手にちゃんと伝わるか。確かに、できれば過不足なく伝わるのが一番です。過不足なく伝えるのがテクニックということになります」
でも、とイノウエさんは続けます。
イノウエ
「スライドが多少言葉足らずなら口頭で補足してもいいし、文字数が多いなら作った後で削ればいいんです。」
テクニックはあくまで気持ちを伝えるための手段です、とイノウエさんは言い切りました。
イノウエ
「それに、ゴールが決まってないのにテクニックだけ使おうとすると、テクニックを使うことが目的になりませんか?」
ミヤケ
「ぐ…」
スライドで大切なのはテクニックより伝えること
イノウエ
「僕らは仕事をしてるんです。仕事ってのは提案を相手に呑んでもらうことです。華麗なテクニックを見せつけることじゃありません。」
イノウエさんの厳しい言葉に、はい、とミヤケさんは力なく頷きました。
「そのためにはまず、相手に伝えたいことをはっきりさせること。それがはっきりしたら、稚拙でもいいから自分の伝えたいことがイメージできているか紙に書き出してみることです。」
はい、とミヤケさんは頷きました。
イノウエ
「じゃあ、これを見てください」
イノウエさんはそう言うと、自分のノートパソコンをミヤケさんに指し示しました。
シンプルなスライドが映し出されます。
一枚目にはビールの写真が映し出されています。
ごく、とミヤケさんの喉が鳴りました。
何せミヤケさんはビールが大好きなのです。
二枚目のスライドを見ると時計の絵が書いてあります。
退勤時間まではあと残り10分。
ミヤケさんが壁の時計を見ると、実際の時間も同じぐらいでした。
三枚目のスライドには、会社のメンバーが大好きな近くの居酒屋「世界屋」の写真がコラージュされています。
年季の入ったカウンター、味のあるのれん、名物のモツ煮込み、焼きたてのほっけ、ビールと相性抜群の鶏の竜田揚げ、きりっと塩が効いた串焼き…。
ああ、今日は金曜日じゃん…ビール飲みたい…それに串焼き。
そろそろ時間ですね、とイノウエさんが笑いました。
イノウエ
「よかったら飲みに行きませんか? おじさんの話に付き合わせちゃいましたし。ご馳走しますよ。」
ミヤケ
「…いいんですか?」
もちろん、とイノウエさんは頷いて、にやっと笑いました。
イノウエ
「ミヤケさん、伝わるスライドってこういうことですよ。」
ミヤケさんははっとして、そして叫びました。
ミヤケ
「ずるーーーい!!」
(終わり)