社長に頼まれて作ったスライドにアドバイスをもらおうと思ったら
「存在しないターゲットに向けて作ったスライドには何の意味もない」
などとダメ出しをされてしまったミヤケさん。
それではどんなスライドを作ればいいのでしょうか?
スライドを作るコツって何だ?
イノウエ
「ミヤケさん、スライドを作るコツって何だか分かりますか?」
ミヤケ
「スライドを作るコツ、ですか?」
それが分かれば苦労しないよ、と思いながらミヤケさんは少し考えました。
分かりやすさ?
見た目の美しさ?
説得力のある理論?
根拠がある数字?
どれも大切であって、でも一番ではない気がします。
もちろんどれも大事ではあるのですが、パーツに過ぎない気がするのです。
もちろん先ほどイノウエさんが言った
「ミヤケさんはこのスライドで何を伝えたいですか?」
という言葉はそのヒントなのでしょう。
しかし
「スライドを作るコツは、伝えたいことがあることです」
では何だかよく分かりません。
ミヤケ
「…分かりません」
しばらく考えてミヤケさんは白旗を揚げました。
そう答えてミヤケさんは、ああ、と思いました。
私は何が大切かも分からないままスライドを作っていたんだ。
スライドで一番大切なのは…
そんなミヤケさんの悔しさを知ってか知らずか、イノウエさんはにこっと笑って言いました。
イノウエ
「愛です」
ミヤケ
「…へっ?」
ミヤケさんは自分がぼーっとしていて別の単語を聞き間違えたのかと思い、イノウエさんに聞き直しました。
しかし井上さんは平然と繰り返しました。
イノウエ
「スライドを作る上で大切なのは、愛です」
ミヤケ
「…はぁ」
このおっさん、頭は大丈夫かしら、とミヤケさんは不安になりました。
スライドを作るコツは、愛?
そんなこと聞いたことがありません。
ミヤケさんがよほど不審そうな表情をしていたのか、イノウエさんが首を傾げました。
イノウエ
「ミヤケさん、パソコン教室に興味はありますか?」
ミヤケ
「…いえ、別に…」
イノウエ
「じゃあ高齢者には?」
ミヤケ
「…それも特に」
イノウエ
「じゃあミヤケさんはもともと興味がないことについて、興味を持たないまま提案しようとしていたということですか?」
言われてミヤケさんは言葉に詰まりました。
それは…と言葉を探します。
そしてイノウエさんから視線をそらしながら、仕事ってそんなもんじゃないんでしょうか、とミヤケさんは返事をしました。
他人事のスライドでは伝わらない
何となく怒られるかと思いましたがイノウエさんは怒りませんでした。
呆れもせず、笑顔のままでイノウエさんは、ミヤケさん、と続けました。
イノウエ
「作った人に思いがないスライドが、見ている人には伝わると思いますか?」
ミヤケ
「…」
イノウエ
「根拠のあるデータがあってロジックがしっかりしていれば、作り手に思いがなくても見ている人は提案を飲みますか?」
ミヤケ
「…ビジネスでは定量的なものが大切じゃないんですか?」
イノウエ
「ミヤケさん、例えば合コンとか行ってですね、相手の男性が『僕は●●大学を出てて、年収は600万で、誰でも聞いたことがある会社でコンサルやってて…』って説明し出したら興味持ちます?」
ミヤケ
「いや、持たないですね。
むしろめっちゃイラつきます」
ですよね、とイノウエさんはうなずきました。
イノウエ
「じゃあ、『ミヤケさんめっちゃ可愛いですね! 今日の服も素敵ですね! 似合ってます! 普段どういうところで服買うんですか?』って訊いてきたら多少はガードも緩みません?」
何なのこのおっさん、と思いながら、でも確かに、とミヤケさんは頷きました。
少なくとも前者より後者の方が印象はいいわ。
ですよね、とイノウエさんも頷きます。
イノウエ
「それが愛っていうことです。
もっと分かりやすく言えば、対象に興味を持つということです」
(続く)